昔は薬剤を「粉砕」して「チューブから投与」していました
チューブを通じてお薬を摂取することがありますが、錠剤やカプセルのままではチューブを通過できません。そんなとき薬局では、あらかじめ錠剤やカプセルを粉砕して乳糖を混ぜ、分包機で1回分ずつに分包して患者さんにお渡しするのが通常でした。しかしこの方法では、調剤器具あるいは注入容器やチューブにお薬がくっついて全量を摂取することが難しい点や、チューブを詰まらせやすい点が、問題になっていました。取り扱う人の目に入ったり吸い込んだりする健康被害も考えられ、粉にしたお薬が湿気を含んでXX日後には固まっていた、変色していた…など品質も問題になりました。
最近は、便利で安全な「簡易懸濁法」が開発されましたので、服用の直前まで「錠剤やカプセルのまま品質を保つ」ことが可能になりました。とても便利で安全なのでぜひご活用ください。
簡易懸濁法とは
お薬(錠剤やカプセル)をつぶさずに、そのまま約55℃のお湯に入れて10分間放置し、懸濁したものをチューブから注入する方法です。
懸濁(けんだく)とは、お湯の中にお薬の粒が散らばった状態をいいます。濁った状態です。お薬の粒子が完全に溶けていなくても、そのまま投与することができます。
簡易懸濁法のメリット
- チューブが詰まりにくい
- 服用の直前までお薬の確認ができて安全
- お薬の一部が中止変更になった時にも取り扱いやすい
- つぶさないので、粉が目に入ったり吸い込んだりする健康被害を防げる
- つぶさないので、お薬が保管中に配合変化を起こすリスクを防げる
- つぶさないので、湿気や光によるお薬の劣化を最小限におさえ、品質が保たれる
- つぶさないので、賦形剤(乳糖など)を加える必要がない
- つぶさないので、お薬が粉砕器具や分包紙やカップに付着せず、ほぼ全量服用できる
- 粉薬よりも錠剤やカプセルのほうが、お薬代が安い
準備するもの
- お薬(簡易懸濁できるお薬かどうか事前に確認します)
- お湯(55℃くらい)(※1)
- お薬を懸濁する容器(ご家庭にある耐熱性の容器)
- お薬を注入する器具(注入器など)
- かき混ぜるもの(スプーンなど)
(※1)約55℃のお湯を作る(おおよそでOK)
方法1)熱湯(約90℃のポットのお湯)と水を2:1の割合で混ぜる
方法2)ポットや給湯器を60℃設定で使い、ちょっとさます
方法3)水道水100mLを電子レンジであたためる(500Wで60秒くらい、使う容器やレンジによって変わります)
ご家庭で作りやすい方法で。やけどに気を付けてつくりましょう!
10分間放置してもカプセルが溶ける温度(37℃)以下にならないことが大切なので、55℃キッチリでなくても大丈夫です。
基本的な方法
- お薬を懸濁する容器(ご家庭にある耐熱性の容器)に、用意したお湯(約55℃)を20mLと、1回分のお薬を入れて、10分放置します【図①】
- 約10分後、スプーンなどでかき混ぜて懸濁させ、固まりがないことを確認してから、注入器で吸い取ります【図②】
- チューブに薬液を注入します
- 残ったお湯を吸い取りチューブを洗い流します(フラッシュ)
【応用編その1】注入するシリンジ内で懸濁する方法
- シリンジの押し子を引き抜いて、シリンジにお薬を入れ、押し子を再セットします【図③】
- シリンジの中にくすりが入ったまま、用意したお湯(約55℃)を20mL吸い上げます【図④】
- 10分放置します(キャップ推奨)
- シリンジをゆっくり転倒させて懸濁させます
- チューブに薬液を注入します
- 残ったお湯を吸い取りチューブを洗い流します(フラッシュ)
【応用編その2】簡易懸濁専用の便利な容器を用意する
- 懸濁と注入が可能な容器(けんだくボトル®けんだくボトルB型®、クイックバッグ®など)を用意します
- 容器にお薬を入れ、お湯(約55℃)を入れて、10分放置します
- キャップをして転倒混和し懸濁させ(クイックバッグ®は粒が残っていたら袋の上からもみます)、固まりがないことを確認してから、チューブに薬液を注入します
- 残ったお湯で容器とチューブを洗い流します(フラッシュ)
注意事項
- 懸濁したまま長時間放置しないでください、お薬が変質したり不衛生になる可能性があります
- お薬を注入したあとは、残ったお湯で、かならずチューブ内を洗い流してください(フラッシュ)
- 容器や器具は原則使い捨てですがやむを得ず再利用する場合は、塩素系で消毒してよく乾かしてください
薬剤師に相談してほしいこと
- 製剤の特性上、簡易懸濁できない薬もあります
- 崩壊しにくくても、かるくひびを入れることで懸濁できるようになる薬もあります
- 数種類の薬を同時に懸濁させることは可能ですが、変色したり固まりが生じるときは、薬剤師にご相談ください
参考書など
本ブログ記事は、下記を参考に、患者さんへ簡易懸濁法をご説明する際に使用する目的で作成しました。
簡易懸濁法マニュアル(じほう)
内服薬 経管投与ハンドブック 第4版(じほう)
PMID33719015