「屠蘇散(とそさん)はありますか?」
年末にふらりと店を訪れたご婦人に尋ねられるも、「とそさん」が意味のある言葉に変換できないワタクシ。
「薬局ならあると思って…お屠蘇の準備をするのだけど」
お屠蘇を作る?お屠蘇って作るものなんですか…!?屠蘇散?薬局にあるものなんですか…知らんかった!
私には、神社でお祓いしてもらった時にいただくやつ…ぐらいの知識しかなかったので、正直どんな味か記憶にないし、なんならただお祓いした日本酒だと思っていたぐらいで。どこにも置いてなくて探し求めてうちに寄られたようでしたが、こんな店主では当然在庫してるわけもなく、たいへん残念な対応になってしまいました。
来年は仕入れておきますから!ごめんなさい!と言うたはいいが、ざっくりGoogle検索してもなんだか「これ中身は結局何なのだ?」というような商品ばかり。通販サイトやばいですね。
さて困ったときはレファレンス協同データベース。というわけで、他の人はどんなふうに調べものしてるのかを検索します。「屠蘇」でしらべる。すると『和漢三才図会』という江戸時代の文献に作り方が載っているらしい。なんとオンラインで見られるぞ。国立国会図書館デジタルコレクション、和漢三才図会下之巻
これによると、屠蘇酒(蘇を屠る、鬼を打ち負かす、酒)を、元旦に飲むと、疫病や一切の不正の気を辟く(避ける)ことができる。
材料は下記9種類の生薬。
赤朮(蒼朮、ホソバオケラの根茎)
桂心(肉桂、シナモンスティックは桂皮)
防風(ボウフウの根および根茎)
ばっかつ(漢字変換できない…サルトリイバラの根茎)
蜀椒(ショクショウ、花椒、麻婆豆腐とか汁なし担々麵とか、ピリピリするやつ)
桔梗(キキョウの根茎、鎮咳去痰作用)
大黄(ダイオウ、瀉下活性あり)
烏頭(ウズ、トリカブトの根茎、ブシに近い部分)
赤小豆(あずき、薬効はともかくおいしい)
これらの生薬を三角のもみ袋に入れて、除夜に井戸底にかけ、元旦に取り出して、酒の中に入れて沸かして煎じる。家中の人がみんな東を向いて、少(わかきもの)から長(年長のもの)へ次第にこれを飲んでいく。薬の滓(かす)はまた井戸に投げて、この水を飲むと、一世の間、病なし。
そして次のような少し異なる方もあるらしい。
白朮、桔梗、山椒、防風、肉桂、大黄、小豆の7種類。
烏頭とばっかつがなくなっている。使い方を間違うとあぶないからかなぁ。
ちなみに屠蘇散でググった通販サイトで商品について記載があったものに関して挙げてみると、これも中身いろいろでした。もはやなんでもアリなんですね。
商品A;防風、山椒、桔梗、肉桂、白朮
商品B;桂皮、山椒、陳皮、桔梗、大茴香、丁字、浜防風
商品C;大茴香、丁子、山椒、甘草、桂皮、髭人参、防風
クローブ(丁子)入りとか香りよさそう、なんなら「酒」をワインとかにしてもいいんじゃないか。『和漢三才図会』の屠蘇酒の「酒」はもちろん日本酒だったんだろうけど、最近のレシピはみりんを使ったり砂糖を入れたり甘くしようとしているものが多いみたい。
今回は『和漢三才図会』を調べましたが、他の文献に載ってるレシピも様々なようです。「屠蘇酒の起源に関する考察(※)」という文献を読みましたが、いろんな屠蘇酒の材料比較表が載っていてたいへん面白く読ませていただきました。屠蘇酒のレシピがどのように伝わり受け継がれ変わってきたのか、各家庭に、我が家のお屠蘇があってよさそうですね。そして、今後どうなっていくのかなぁ、お正月に屠蘇酒をたしなむ家庭は減ってゆくのかな…など考えたのでした。
(※)屠蘇酒の起源に関する考察、薬史学雑誌50(1),78-83(2015)
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